【閉店】市民酒場・三河屋(弘明寺)

July 5, 2017

 

2017年6月30日
弘明寺の市民酒場、1921(大正10)年創業の三河屋さん閉店。
2015年12月に刊行した『
横濱 市民酒場グルリと』の書下ろし記事のために取材させていただき、大変お世話になりました。
三河屋の歴史、代々守られてきた味について執筆できたこと、貴重な資料として残せたことに意義があったと、改めて思い至っている次第です。本当にありがとうございました。

 

長い歴史とその営みに敬意を込め、以下に、『横濱 市民酒場グルリと』にて掲載した本文記事を一部改変のうえ転載致します。


 

 

 

門前町の滋味あふれる定食で一杯…
三河屋
定食と至福の一杯
昼下がり、弘明寺観音を参拝したあと、長いアーケードを抜ける。
目指すは、「三河屋」。
鎌倉街道まで来たところで右に折れ、しばらくして、また右に入ると、「御酒と御食事 三河屋」の看板が見えてきた。

ところで、私はいつもこのルートで三河屋に入るが、この店にはもうひとつ扉があって、なんとなくそっちを主に使うのはベテランの常連なのだろうと思っていたりする。
さて、店の前に立て掛けられたボードに、本日のサービス定食は「メゴチの天ぷら定食」と記されているのを確認し、紺色の暖簾をくぐった。

 

タイル張りの床に、木目の壁。メニューの短冊がずらりと貼られている店内奥のテーブル席を目指す。
カウンター席では地元の古くからの常連と思しき男性が、カウンターのなかに向かって世間話をしている。手際よく作業しながらニコニコと応じる店の女性。
テーブル席には新聞を眺めながらお茶を飲む人、静かに瓶ビールを傾ける人、「三河屋」というラベルの貼られた麦焼酎のボトルを水で割っている2人組…。昼時とあって、界わいの会社のサラリーマンと思われる人の姿もある。

定食屋の雰囲気のなかに和やかな酒場の空気も溶け合っていて、一歩踏み入れた瞬間から居心地がよい。
 

早速、キリンの瓶ビールと本日のサービス定食を頼むことに。
定食には手頃なプラス料金で小鉢がつけられるようである。この小鉢をアテに、一杯、二杯楽しむ客も多いことだろう。
思わず私も、もずく酢としらすおろしを追加した。

メゴチの天ぷら定食には、赤味噌のなめこ汁、香の物がつく。ふっくらとした白身魚の天ぷらに塩を掛けていただくと、ほんのりとした甘さが感じられた。
 

小鉢を順繰りとつまみ、ビールをひと口。天ぷらに戻り、たまにご飯を頬張る。
それをしばらく繰り返す。椀や皿のなかのものが、バランスよく身体に吸収されていく。
丁寧に作られた定食は、食べ終わると五臓六腑に栄養が染みわたっていくような満足感が得られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市電終点だった弘明寺の賑わい
三河屋の創業は1921(大正10)年、酒屋として鎌倉街道沿いで営業を開始した。
屋号の由来は、初代の奉公先だった戸部の酒屋に由来する。

創業当初から戦後間もなくにかけては酒のほかに雑貨なども売っている「なんでも屋」のような店だったという。
「二代目の父が、アイスクリームの機械を入れたりして、これが評判だったみたいですよ。」
そう教えてくれたのは、三代目女将の石川政子さん。ご主人の三雄さん、息子で四代目の聡さんご夫妻とで同店を切り盛りする。
戦時中、弘明寺周辺は空襲の被害が市内で比較的少なかったこともあり店舗は戦火を免れた。
戦後、しばらくして「なんでも屋」から、現在のような飲食店へと転業。区画整理のため1963(昭和38)年に今の場所へと移転した。
市電の終点があったため、乗り換えの客で賑わった界わい。ビリヤード場に映画館、ダンスホールや料亭が並んだ。「当時は仮装行列もここまで来ていたんですよ」と政子さん。
横浜国大工学部があった頃は、三河屋には大学関係者も多く訪れたという。
「今でもね、あの頃のお客さんが来てくださるんですよ。2階で宴会をなさったりね。ここは昔ながらの建物でしょう? 『このまま改装しないほうがいいよ』っておっしゃるんです。」
古い常連たちは築50年以上になるという三河屋の落ち着いた建物の雰囲気にも癒されてきたのだろう。そんな彼らが好んで食べたという三河屋の名物メニューは「子袋」だそうだ。
「父が工夫して作ったメニューでね。お客さんが取っておいてくれと電話してくることもあるんですよ」と教えてくれた。
多くの市民酒場組合所属店は昔から、ふぐ、うなぎ、どじょう、煮込みなどを名物にしてきたようであるが、ここ三河屋の子袋は全くのオリジナルだ。
まだ見ぬ名物メニューに心躍る。

 

三河屋伝統の「子袋」を求めて

早速「子袋」を注文した。
はやる気持ちを抑え、瓶ビールを飲み、心を落ち着かせる。
間もなくして目の前に届けられた平皿の上の子袋。
添えられた練り辛子を付け、ひと口、ひと口、口に運び、コリコリとした食感を楽しむ。ここまでクセのない子袋は、素材の鮮度もさることながら、下ごしらえに秘密があるのだろうか。
大衆的な酒場では味付けを濃くしたモツをよくいただくのだが、この子袋は塩コショウくらいの味付けで、旨味も十分感じられる。
酒屋時代からアイスクリーム機を導入するなどの営業努力をしてきた先代ならでは「工夫」があるのだろう。
ほどよい静けさのなかで、子袋のコリコリとした音が響いていく気がした。
そうしていると、もうひとつの入り口の扉がスッと開いた。入って来た眉雪は無口のままゆっくりとカウンターまでやって来て「いつもの席」に座り、キープボトルを飲みはじめたのだった。


 

 



 

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